天草の野生イルカについて 聞き取り調査の結果(1)

天草の野生イルカについて 聞き取り調査の結果(1)

調査報告シリーズ パート3(1)
聞き取り調査についてのレポートです。
この調査は、主にイルカウォッチング観光船からのイルカ発見情報をもとに行いました。

あらかじめ「枠」を準備したホワイトボード

これに日々のイルカ情報を記載し、写真を撮って、私に送信してもらいました。

海には道路や標識がないので、コミュニティごとに様々な呼称があります。(人によって微妙に異なる場合もあります)記入してもらった場所が、実際どこなのか、についてはなるべく認識の差がでないように日頃から努めました。

発見場所をエリア分けして、それに照らし合わせたうえで
このようなカレンダーにおとしこみ、データにおきかえていきます。
(3月~10月は一日5便、11月~2月は一日4便)

イルカの数や、発見場所はもちろん主観になりますが、大きな傾向を把握するにはとても貴重なデータです。
これを学術論文のレベルにあげるとすれば、イルカの数はドローンや写真、動画での情報を追加したり、あるいはエリアマップも地域メッシュにして、さらに船にGPSを設置する慎重さが必要でしょう。
そのうえで現段階では、なるべく現場の方にとって小さい負担になるようにしてお願いしました。

イルカの数については、3パターンにわけて情報を取り扱いました。
① 未発見 or 明らかに数頭で誰が見ても同じ数
② 10~20 人によって±10頭前後の認識差はあるものの明らかに “多数” ではない
③ 30頭以上~群れのほとんど
天草(有明海)には、200頭前後のミナミハンドウイルカが1群れとして生息しています。そして基本的には③の状態でいることがほとんです。(それが特徴でもあります!)

完璧なイルカの数を把握することはできないため

当調査では
少なくとも30頭以上を「群れ」と定義
しました。

365日のデータには、たくさんの情報が含まれているので、いろいろに展開することができます。

よみとれる情報がたくさん!

さて、下記のグラフは、イルカの遭遇エリアを示しています。
<表データ割愛>
各月の出港、乗船客ゼロ、欠航回数の総数をそれぞれ母数としています(ex.4月 母数:150)

得られた情報から、2つのグラフに分けています。

左側は「群れ」がどこにいたか(いなかったか)
右側は【イルカの数は問わず】どこにいたか(いなかったか)
という違いがあります。

調査結果を分けた理由は、
左:月別の「群れ」移動情報
右:観光船のイルカ遭遇率
という目的の違いによるものです。

左のグラフについては、イルカ頭数情報の①と②を「ゼロ」としてカウントします。20~30頭以下までの発見については、”群れ本体” の発見情報とはみなしません。
右のグラフについては、たとえ少ない数でも観光客目線で「イルカに会えたかどうか」を示します。

天草のイルカが「いつも大きな群れで一緒に過ごしている」という特徴を解説するときには、どちらも同じように大切な情報です。とくに、イルカが少ないときに「何が起きているのか」を解説するひとつの視点として役立ちます。

では、聞き取り調査からよみとれた結果についていくつかあげます
【左グラフ】(群れの場合)
・年間10~17時のイルカ群れ発見ポイントは、通詞島沖が1番多い
     エリアA(通詞島沖)29.6%
     エリアB(国道沿い)25.5%
・年間を通じて、エリアA,B(イルカセンター近く)で群れが発見される確率 55.1%
・エリアA,B以外の場所では、夏場はH(苓北沖)、冬場はDE(長崎県沿岸で遠い)エリアで発見される傾向がある。基本的に冬場に苓北沖に行くことはない。
・”群れ” の未発見割合が高いのは11月 32.5%
・11月は(出航しても)未発見、あるいは天候不良による欠航の割合を合わせると58.3%と高く、さらにエリアA,Bでの遭遇が17.5%と最低値。つまり、出航しても「群れ」に会える可能性が極めて低く、またポイントも遠い

【左右グラフを比較】
未発見の赤、の違いが目立ちます。群れ本体の発見はできていなくても、少なくとも20頭前後程度のイルカには会えている月がほとんど、ということがよみとれます。
右グラフで赤のところは、1頭も見れていないことを示しているので、2024年11月は「完全にゼロ」であった割合が異常に高かったといえます。

このようにして毎年のデータを”分析” し、さらに3年分のデータをまとめてイルカたちの傾向を “解析” しました。
まだまだ読み取れた情報はたくさんありますので、次回のレポートもお楽しみに!

聞き取り調査について、これは現場で協力をしてくださったイルカウォッチングスタッフのお陰で収集することができた貴重なデータです。
1人が365日1日5便のすべての船に乗船することは不可能であり、現場の協力なしには成しえなかった成果です。
快く協力してくださった方々に、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。